脳死が確認されて二週間を経過した彼の皮膚細胞は、無数のチューブに繋がれ、人工呼吸器と点滴によって生き続けていた。

しかしそれも、昨日までの話。彼は死んでしまった。
「すみません。手は尽くしたのですが…」
お医者さんはとても悲しそうな顔で告げた。
彼の亡きがらを抱いた時、とても軽くて、苦しかったんだと思う。
でも、もう苦しまなくていいんだよ?楽になれたね。
「………治療費は結構です」
決して裕福とは言えない私の状況を察してか、なんて優しいお医者さんなのだろう。
私はすぐに泣いた。
「……遺体を見るのは辛いでしょう」
お医者さんがシーツを被せる。
「……思い出は彼と共に焼いて忘れなさい」
この一言で私は立ち直れた
ありがとうございます。お医者様。

* ヒントとネタバレは黒色で書いています。文字列をドラッグして読んで下さい *
■ヒント
軽い亡骸
■ネタバレ
彼は脳死状態だったので臓器を売られた。
 治療費をとらないのも遺体を見せないのも火葬を勧めるのもその為。

※「狂気太郎」というサイトにある短編小説「破滅の夜」の第九十三夜「内臓がないぞう」
 が元ネタらしいです。
 http://www.h5.dion.ne.jp/~madtaro/

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