おれと竹田はちょっとした沼のほとりにいた。あたりはやけに静かだ。
修学旅行の自由行動の時間、おたがいに自分の班から抜け出して適当にぶらついてたら、
いつのまにかこんなところに来てしまったのだ。
さざめく沼の水面を見ながら、おれはタバコに火をつけた。深く吸い込み煙を吐き出す。
ふと隣りの竹田に目をやると、
青ざめた表情でおれの指先のタバコを食い入るように見つめている。
「どした?」おれは竹田に声をかけた。
「……なあ、そのタバコ」
「ん?」
「味がしないだろ」竹田は切羽詰まった声で言う。
「なんだって?」
「するわけないよな。
そもそも、タバコなんか吸ったことないおまえに、味がイメージできるわけないよな」


竹田が何を言いたいのかさっぱり見えてこない。
……そう言えば、このタバコはいつ買ったんだっけ。

思い出そうとしてみるが、なぜだか頭がうまく働かない。
「なあ、そろそろ戻ろうぜ」おれは急に不安になり促した。少し寒気がする。
「タバコどうした?」
それには答えず、責めるような強い口調で竹田が聞く。
「何が?」
「さっきまで吸ってたタバコだよ。指先にはさんでただろ。どこに消えたんだよ」
「さあ、どっかそのへんに投げ捨てたんだろ。何をそんなに怒ってるんだよ、竹田」

「おれは認めないぞ……こんなの。いいか、いまでもおれは完全否定派だからな」
「だから、何の話だよ」
「あそこを見ろよ。そして、何も見えないと言ってくれ。お願いだから」
竹田は沼の真ん中あたりを指差した。
おれは目をこらした。水面下から黒いタイヤの表面が突き出しているのが見えた。

* 文字列をドラッグして読んで下さい *
「じわじわくる怖い話」に投稿された作品です。
正解は筆者のみぞ知る・・・・・・。解答編が投稿されたかは未確認。。。
読者それぞれが想像した怖い話=答え、ってことになるのかな?
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☆個人的に無理やり解釈して竹田目線の話を創作してみました。

こいつはまだ自分が死んだ事を理解していない。
今もこうしてあの日の夜に訪れた沼に俺を連れ出す。
俺は青ざめた、友人の指先にタバコが現れたからだ。
自分が死んだ事を知らず、自分も成人したと勘違いしている友人は
俺の真似をしてタバコを吸う仕草をよくする。
「どした?」
友人が不思議そうな顔で俺に聞く。
「……なあ、そのタバコ」
「ん?」
「味がしないだろ」
「なんだって?」
「するわけないよな。
そもそも、タバコなんか吸ったことないおまえに、味がイメージできるわけないよな」
俺は皮肉たっぷりに指摘してやったが
友人には俺が何を言っているのか理解できないようだった。

「なあ、そろそろ戻ろうぜ」
言いながら友人が寒そうに身震いした。
それはそうだろう・・・こいつの体は冷たい水の底に・・・・・。
友人の手元からタバコが消えた。いつもこんな感じだ。
自分にとって興味のあるものしか奴には見えていないのだ。
「タバコどうした?」俺は責めるような口調で聞いた。
「何が?」
そんなどうでも良い事をなぜ聞くのだ?と言いたげな表情の友人。
質問に質問で返され俺は急に腹が立った。
「さっきまで吸ってたタバコだよ。指先にはさんでただろ。どこに消えたんだよ」
「さあ、どっかそのへんに投げ捨てたんだろ。何をそんなに怒ってるんだよ、竹田」

だが、俺がイラついている本当の理由は別にある。
「おれは認めないぞ……こんなの。いいか、いまでもおれは完全否定派だからな」
自分に言い聞かせるように呟いた。
「だから、何の話だよ」
噛み合わない会話に業を煮やしたのか、友人が俺を責める。
「あそこを見ろよ。そして、何も見えないと言ってくれ。お願いだから」
沼の真ん中を指差しながら俺は友人に懇願した。
いつまでも事実を認めたくないと思っているのは、友人じゃない。
本当は俺自身なのだ。
だが、どんなに事実に目を背けようとしても、
沼の水面に見え隠れしている黒いタイヤが消える事はない。
ああそうさ、俺は車ごとこの沼に沈んだ。
だが、信じないぞ。
・・・・・・無念の死を遂げると人が幽霊になるだなんて。
絶対に、認めないぞ。
・・・・・・幽霊が人を呪い殺すなんて。

俺は認めない、友人が死んだのは俺のせいじゃない。

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