「こうして夜の海を黙って眺めていると……
ずっと言えなかったことが言えるような、そんな気がしてくるものだな」
「ずいぶんもったいぶった言い回しじゃないか、おまえらしくないぞ。
わざわざ誘ったからには、何か話があるんだろ?」

「……最初に言っておく。
この話を聞き終えたらおまえは、きっとおれを海に突き落とす」
「なんだよ藪から棒に。いいから話してみろって」
「……子供の頃のことだ。
ある秋の日の夕暮れ、おれは茜色に染まった浜辺で一人きり、
ただただ波を見つめていた。
ふと背後に誰かの気配を感じ振り向くと、そこには全身ずぶ濡れの女が立ちすくみ、
青ざめた顔でおれを見つめていた」
「…………」
「女の様子にただならぬものを感じたおれは、無言でじりじりと後ずさった。
『失敗だった』女はうつろな眼差しをおれに向けたまま、
熱に浮かされたような声でつぶやいた。
『あの子と共にいこうと思って、海に入ったけれど、駄目だった。
あの子はいったのに、わたしだけが残ってしまった。
どうしよう。わたし一人じゃいけない。
ねえぼうや、一緒にいってくれる?
ねえ、一緒にいってくれる?』
そう言って、女はゆっくりとおれに手をのばした」
「……おまえ、どうして……」
「どうしておれが知ってるのかって?
誰にも話したことのないはずの、おまえの過去の記憶を」
「まさか……」
「そうさ。あの浜辺に立っていたのは、おれの母親だったんだ」
「嘘だ、そんな……」
「だから、おれはおまえなんだよ。そして、おまえはおれなんだ」
「じゃあ、あの時溺れたのは……」
「早く突き落とせよ。でなけりゃ目を閉じろ。おれはどちらだってかまわないんだ、本当に」
「…………」

「……ねえ竹田くん、思い出せたら聞かせてほしいの。あの夜の転落事故のこと」
「竹田? 先生、誰ですかそれ」

* 文字列をドラッグして読んで下さい *
「じわじわくる怖い話」に投稿された作品です。
正解は筆者のみぞ知る・・・・・・。解答編が投稿されたかは未確認。。。
読者それぞれが想像した怖い話=答え、ってことになるのかな?
---------------------------------------------------------------------------
☆昼ドラ風に解釈してみました。
「こうして夜の海を黙って眺めていると……」
 →このセリフを言っている人物をA
「ずいぶんもったいぶった言い回しじゃないか、おまえらしくないぞ。……」
 →このセリフを言っている人物をBとします。

・Aは幼い頃に海で溺れた。沖のほうに流されたAを助けようと沖まで行こうとしたが
 母親は沖まで行けず戻ってきてしまった。
 このままでは家に帰れないので浜辺で遊んでいたBを連れ去り自分の子供にした。
 だがAは死んではいなかった。助けられ別の親の元で育った(または施設に預けられた)
 誘拐されたBだが、浜辺で一人きりで遊んでいたのは
 両親がおらず預けられた施設でもイジメられていたからで、新しい環境もすぐ受け入れた。
 時は経ちAとBは知り合い友人(親友)となった。
 Aが海に流されなかったら、Bは親の居ない人生のはずだった
 Bが本来歩んでいたであろう人生はAが歩むことになった。
 突き落とす(俺を殺す)か目を閉じる(俺に殺されるか)かどちらが良いか選べ、
 とBに迫るA。
---------------------------------------------------------------------------
最後のセリフだけではどっちが生き残ったのか不明です。。。
生き残った人物は記憶喪失に・・・的なオチでしょうか?

「きっとおれを海に突き落とす」と言っているので
BにとってAは“生きていてもらっては困る存在”なのだろう、という事で
遺産相続がらみかな?と思いました。
怖い内容を連想させるためにそういう展開にしたのでしょうね。

TOPへ戻る